謝罪のプライド

小さな笑いが私の耳に届く。数家くんが口元を抑えて笑っていた。


「なによ」

「だって。新沼さんって可愛いよね」


可愛いなんて、言われたことないわよ。
私への褒め言葉はいつだって根性があるとか逞しいとかそういったもので。


「結局彼が好きなんだ?」


優しい声音は、私の一番の本音を言い当てる。
迂闊にも再び湧き上がってきた涙を止めることができなくなって、私は泣きだした。

ああ、せっかく落ち着いたのに。


「別れちゃえばいいのに。泣かせるような男に新沼さんが夢中だなんて、ちょっと苛つくよね」

「え?」


なんですと?


「俺が慰めるから、一度別れちゃえばいいよ」


あまりにもサラリと言われて、目が点になる。

今のはなんですか?

告白……か? いやでもあっさりし過ぎじゃない?
“明日の朝食、ご飯よりパンにしよう”くらいの軽さだったよ。


「俺、今週木曜休みなんだよね。夜一緒に御飯食べない?」

「いやでも、あの」

「ほら、夏用の鍋出すって言ってたじゃん。ごちそうしてあげるよ」

「ここで?」


自分の働く店でご飯食べるのってイヤじゃないの?


「そう。うちの料理の美味しい食べ方を教えてあげるよ」


……これはデートのお誘いだったのだろうか。
それもよく認識できなかったけど、今日の数家くんにはよく分からない勢いがあって。


「……は、ハイ」


私はなりゆきで頷いてしまった。


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