謝罪のプライド


『……策士にはなりきれなかったなぁ』

「ごめんね。ホントにごめん」

『謝らないでよ。俺も君が弱ってるところにつけこんでたし』


一度言葉を切る。沈黙の余韻が妙に切ない。


『謝られるんじゃ惨めだから』


ハッとする。
何でもかんでも謝ればいいってもんじゃないんだ。

言葉って簡単なようで難しい。
勢いで言ってしまう言葉が、人を傷つけることだってある。


私に色々なものを気付かせてくれた数家くんに、一番伝えたい言葉は謝罪じゃない。


「……ありがとう」


「うん。どういたしまして。……仲直りしたら一緒に鍋食べに来てよ?』

「仲直りできればね。間に合うか分からないけど」


もう呆れられてるかもしれない。
ふらふらと数家くんに甘えていたところまで見られたんじゃ。


『大丈夫、彼は君のことが好きだよ』


振った相手に慰めてもらうとか、図々しいな、私。


「ありがとう」

『こっちこそ、いろいろ振り回してごめんな。またね、新沼さん』



電話が切れても、数家くんの声が耳に残る。

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