謝罪のプライド
「じゃあ、今日はごちそうになろう」
「え? ここの支払いですか」
「馬鹿。んなわけあるか。早く食え」
「は、はいっ」
胸がドキドキしながらも、一気に食べた。
でも、いざ部屋に行く段になって、泣き明かした部屋をそのままで出てきたことに気がついた。
たしか、涙を拭いたり鼻をかんだりしたティッシュがそこら中に散らばっているし、八つ当たり気味に恋愛小説もいたるところに投げ捨てた。
多分、空き巣の入った家みたいになってる。
それに下着だって、今日は適当なのを履いて来ちゃってるし、憧れの九坂さんに見せられるようなものが何一つない。
「九坂さん、あの。私嬉しいんですけど、そう言えば今日はちょっと」
「ん?」
彼は一瞬変な顔をしたけど、私が怖気づいたと理解してくれたのか「わかった」と言ってくれた。
「じゃあ今日はこれだけな」
触れるだけのキスを一瞬して、それ以降は足早に歩いて行く。
「ま、待ってください」
「待たん。遅れたくないならお前が急げ」
「はい」
追いかけて追いかけて。
今私は追いついているのだろうか。
「九坂さん、今のキスは……」
「なんだ? まさか初めてなわけじゃないんだろ?」
「そりゃ、そうですけど。あの、私、……期待していいんですか?」
信じられなくて、どうしても確かな言葉が欲しかった。
だけど彼は不敵な笑みを浮かべたまま笑うだけだ。
「自分で考えろ」
「私、都合のいい方に考えますよ」
「勝手にしろ」
突き放すようにそう言いながらも、彼は私のアパートの前まで送ってくれて、そのまますぐに戻っていった。