謝罪のプライド


「謝るくらいなんてこと無いよ。早くその場を収めないと他のお客様に迷惑でしょ。くつろぎに来てるのに」


サラリと言われて、私は一瞬目をパチクリとさせた。
それは私には考えもつかない理由だったから。

目の前の数家くんは、それがさも当然というように笑っている。


「……他のお客様のため?」

「飲食店は、お客様皆のための場所です。居心地良くするために、謝るくらいで収まるならいくらでも頭下げるよ」

「……そっか」


妙な説得力に、私は黙ってしまった。

店員さんの視点ってそうなんだ。私の怒りはただの客目線での苛立ちだ。
ちょっと興奮して熱くなりすぎてしまったことが、今更ながらに気恥ずかしい。


「プライドあるから謝るんだよ」


続けられた彼の一言に、私は彼の自尊心を傷つけてしまったのかも、と心苦しくなる。


「ごめんなさい。私何も知らないのに」

「いや? そうやって怒ってくれる人もいるんだなぁって思えたのは嬉しかった。ありがとう」


くしゃり。そんな音が聞こえそうなさわやかな笑顔に、何故かぎくりとする。
数家くんがあまりにも変わっていたから、どうもどんな調子で話していいか分からない。

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