謝罪のプライド
*


 帰りに浩生に電話をかけると、まだ仕事中だという。


「今日来る?」


 美乃里のこともじっくり話したくてそう言ったけれど、浩生の声は冴えなかった。


「月曜だしやめとく。ちょっと忙しくなりそうなんだ」

「そう。あの、坂巻さんのことだけどさ」

「ああ、あの後こっちでも会議してさ。やっぱり俺に面倒見ろって。短期間だから仕方ねぇか」

「……そう」


そうか。まだ浩生が見るのか。
それが適任だと思うのに、ちょっと嫌だなと思う私は心が狭い。


「それにお前なんかアイツに言ったんだろ? 戻ってきてから顔つきが変わった」

「そう?」

「ああ。信頼されてるんだな。さすが先輩じゃん?」


うわ。褒められた。
それだけで心臓が激しく踊りだす。
だって、口の悪い浩生から褒められることなんてめったに無いもの。


「そういうわけで、俺もアイツに手が掛かる分、仕事が押してるんだ。しばらく帰り遅いから寄れない」

「そっ」


それなら余計うちに来ればいいのに。
ご飯だって洗濯だって私がしてあげられるのに。

でも、浩生の口調があまりにもきっぱりしていたから、食い下がるのに気が引けてしまった。


「そっか。あ、私水曜は友達と出かけるから帰り遅くなる」

「ん、楽しんでこい」

「うん。……ありがとう」


相手が誰、とかも浩生は気にならないのかな。
何も聞かれずに電話を切られたことにも寂しくなる。

どうしちゃったんだろう、私。
なんだか心に隙間風が吹き始めている。



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