謝罪のプライド


「ここ? なんかオシャレね」


レストラン風の外観を見て顔を綻ばせた亜結は、漂う匂いを嗅いで少し変な顔をする。


「でもあんま肉系の匂いしないわね」

「うん。まあ入ろう」


促してオシャレな入り口をくぐると、まずは店員さんの声が耳に入ってくる。


「いらっしゃいませ。……あ、新沼様」


出てきたのは今日も数家くんで、彼は私達を見るとにっこりと笑った。


「二名様ですね。こちらへどうぞ」


彼の後について歩いていると、亜結が横から腰を突く。


「ちょっとー、名前まで覚えられてるくらい常連なの?」

「いや、ちょっとそれは後で話すわ」


どうやら亜結も、彼があの数家くんだとは気づいていないようだ。
言ったらどれだけ驚くんだろう。クールな亜結が驚く姿は親友である私でもあまり見ないから楽しみだ。私は内心でほくそ笑む。

通された席は四人がけのテーブル席だ。中央にテーブルとフラットな状態になるようにコンロが埋め込まれている。すぐにお水とおしぼりが出され、「ただいまお通しをお持ちしますね」と一礼して彼は去っていく。


「鍋の店なんだよ。たまにはいいでしょ」

「鍋かぁ。なんか体に良さそうなイメージ」

「そう。私達もうそんなに若くないんだから、体に良い物食べなきゃダメなのよ」

「何熱弁してるのよ。初音、ババ臭い」

「だって」


自分より若い子を相手にしていると老けるのよ。
本心だったが今ここでそれを言うのはやめた。

久しぶりの親友との食事だ。不愉快な話題はできるだけ避けたい。

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