謝罪のプライド


『あっそ。まあいいや。今日、帰り寄るから。じゃあ』

「あ、はい。ありがとうございました」


電話を切っても動悸は収まらない。
勝手にため息が出るのは、自然に体が熱を覚まそうとしているからだろう。


「……今の、九坂さんって、あの九坂さんですかぁ?」


美乃里は探るような目。興味を持ってるなっていうのは一瞬で分かるものだ。

いやいや、浩生は私の彼氏だからね。渡さないよ!


「ええ、そうよ。あの“謝らない男”九坂よ」

「謝らないのにクレーム処理率が一番なんですよねぇ。凄いなぁ」

「ホントね。今も午前中で二軒終わらせたようよ」

「さっすがぁ。格好良いなぁ」


夢見るような瞳の美乃里にどうにか牽制をかけたいけれど、社内恋愛をおおっぴらにしていない私にはなんとも言いようがない。


「ホントは苦情でCEまで出動させないほうがいいのよ。さあ、まずは報告書を書き終えて。覚えてもらわなきゃならないことがたくさんあるんだから」

「あー、はぁい」


美乃里はまだ話し足りないといった様子で肩を落とすと、目の前の書類に視線を戻した。
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