謝罪のプライド
「しかもそれが美味しくて。……もう彼女しかいないって思ってしまったんです」
「ちょっとやめてよ。恥ずかしい」
照れてる亜結も、まんざらでもないんだろう。
彼の肩を叩きながら嬉しそうに笑ってる。
いいな、羨ましい。
私はともかく、浩生がこんな風に照れながら話すことなんか絶対ないんだろうなぁ。
その後も二人の馴れ初めを中心に話は盛り上がった。
そして途中でトイレに立った時、亜結も一緒についてくる。
「彼どうかな」
伺うような表情で私に聞いてくるから、満面の笑みで答えた。
「いい男捕まえたよ、亜結!」
「本当?」
「ホント。亜結が好きだーって顔に書いて歩いてるみたいな人じゃん。真面目そうだし、結婚相手としては完璧だと思う」
「そっか良かった」
ホッとした様子の亜結と連れ立って化粧室を出た時、聞き覚えのある声が耳に届いてぎくりとした。
「やだぁ、九坂さんってば」
ちょ、待って。
この声は。
思わず身を潜めて辺りを伺う。
なんで?
美乃里の声だ。そして呼ばれたのは九坂……だもん、浩生だよね。
「九坂さんって……え?」
名前に反応して、亜結も不審そうに私を見る。
「き、きっと会社の飲み会かなんかかな。あはは。聞いてないけど。……てか、ちょっと亜結先に戻ってて?」
なんとか誤魔化しつつ、私は声のする方を伺った。