謝罪のプライド

「珍しい店知ってるんだな」

「私最近ご贔屓にしてるんですようー」


返す声はやはり浩生のものだ。

そして答える声がハイテンション。
アンタついこの間浩生のこと怖いって言ってたじゃないかよ!
掌返し過ぎだわ。

しかも、会話には二人の声しか聞こえてこない。
他のCEさんは居ないのかな。
ふたりきりでこんな店?

一緒に食事したら浮気、とかそんな心の狭いこと言うつもりはないけど、でも胸はむかむかする!


なおも聞き耳をたてようと、腰をかがめて近寄ろうとした時、「なにしてるんですか? 新沼さん」と、後ろから声をかけられて総毛だった。

振り向くとキョトンとした顔でお盆を持った数家くんが私を見る。

「か、数家くん。あの、あの席のお客様って何人組か分かるかな」

声のするテーブルを指さしていうと、数家くんは首をかしげつつも、ちらりと覗き込んだ。

「ああ、最初に来ていただいた時にご一緒だった人ですね。……お二人、ですね。デートでしょうか」

「デっ……」

まあ男女が二人でくれば一般的にはそう見えるか。

つか、数家くんって一度来店した人は皆覚えてるのかな。
だとしたら凄い記憶力。飲食店店員にしておくには勿体無いよ、その能力。


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