謝罪のプライド

そもそも、いいコトって何。
食事に行ったこと自体がいいコト?
それとももっと他にあるの?


「あ、新沼さん」

「ん?」

「九坂さんってステキですね」


ウィンクしてそう言われて、目の前が真っ暗になった。

それってどういう意味ですか。
浩生と何かあったの?

彼は私の彼氏だ。 
……なのに私はどうして不安にばかりなるのだろう。
彼のことを信じ切れないのはどうしてなの。

フンフン鼻歌を歌いながら行ってしまう美乃里とは対照的に、私は重苦しい空気を纏いながら一日を過ごした。






 その夜の九時、ようやくかかってきた電話は待望の浩生……ではなく、見知らぬ番号だった。

いや、見知らぬは嘘だ。
これは多分、まだ登録していない数家くんの番号だろう。


「もしもし?」


昨日鞄にしまったままにしていた、数家くんにもらった伝票メモを取り出す。うん、こんな番号だった。


『新沼さん? ごめんね、こんな遅くに』

「ううん。でも、数家くんこそ仕事じゃないの?」


なんとなく、後ろがざわざわしているし。時間も九時ならまだ忙しいだろう。
仕事着で動き回る数家くんが目に浮かぶようだ。
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