深海魚Lover
「おいっ、ワラビ!

 危ないだろう」

「ワンワン」

老犬のため井原家に置いて来た犬のワラビは尻尾を振り、喜んで出雲の足元に纏わりつく。

「わかったわかった
 もうよせよ」

「はぁはぁ

 ワラビ、キミ足早いなぁ」

息を切らしながら犬の後を追って来た京次の姿に、出雲はホッと安堵するのだった。

どんなに強がってみせても中身はまだまだ子供。

「探したよ

 よかった無事で」

「……」

どろどろに汚れている靴を見た京次は、出雲に背中を向けて言う。

「僕がおぶるよ、こっちに」

「いい、だいじょうぶ」

「ダメだよ!
 そんなにフラフラじゃ危ないよ

 ほらっ、いずも
 僕にまかせて」

出雲……そう名を呼ばれ、張りつめていた糸が切れた。

左目からポタリ落ちた一滴。

真っ暗な中、絢の手が放れてしまったらと思うと……

「いずも、こわかったんだね」

「こっこわくなんてないさ!
 つかれただけだ」

「そう、じゃあ早く帰って
 眠るといいよ」

ワラビを抱き歩く出雲の隣には、絢を背負い歩調を合わせて歩く京次の姿がある。

「……ケイ兄、ありがとう
 
 それから、さっきのこと
 じゅんには言うなよ」
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