深海魚Lover
憎まれ口を叩こうとした出雲の頬にあるのは、父親の手の感触。

頬に伸びた手は、ずっとずっと、この俺を苦しめ続けた手……


自分を苦しめた憎き手のはずなのに----

しわしわの手、弱弱しく

愛おしい


出雲の瞳から零れ落ちる一粒の滴、垂れて加瀬の手に止まる。


「おまえはもう

 泣き虫、じゃない

 強くなったな、イズモ

 ……よくやった

 俺の、かわいい息子よ」


俺の息子……

俺は愛されていた


「もう心配ねえな……逝ける」


安心してあちら側の世界へと歩んで行ける----

出雲の頬に触れる手は頼りなく落ち、ゆっくりと微かな呼吸が聞こえる。

瞳を閉じる加瀬組長。

繋がれた機械から流れる警告音


「父さんっ、父さん!」

「親父ッ、先生!」

「……退出願います」

「坊ちゃん」

「いや、俺はここに居る」


残り僅かな時間----

あんたの息が途絶えるその時まで


「親父、看取ってやるから
 安心して逝けよ」


その言葉に部屋を出ていこうとした右田達は足を止める。


「……」

「後のことは俺に任せてよ」


その言葉に驚く、充。
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