深海魚Lover

「ヨウコ、違う
 悪いのは全て、この私」

「一生やってれば

 ……帰って
 
 アンタの顔なんて二度と見たくない!

 私の父はもういない」


蓉子の部屋を出て行く楼の背に聞こえた独り言

頼りなく儚げな声……


「峰に言われて仕方なく彼に近づいたけど
 彼は本当の私を見てくれた

 愛しているの、イズモを……
 
 だから、彼が死んだら私も死ぬわ
 
 この世に未練なんてないもの」


閉まるドアの前----


穢れなき少女の蓉子は言う。


『お父さん、早く帰って来てね』


強く握った拳

楼は何かを考え、そして歩み出す。



----ここは、京次の家


居間に敷かれた布団で、一人すやすやと眠る潤司。

芽衣子は台所に立ち、二人分の夕食の準備に取り掛かる。

とはいっても、潤司は風邪で食欲はないだろうから今晩は温かいおうどんの予定。

すぐに調理が済んでしまうため、まずは野菜だけをカットしておこう。


「はぁ、食欲ないなぁ」


昼食を抜いたお腹、まったく減らない。

京次との別れのことを思うと食欲がわかない。

包丁を持つ手も進まない。
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