深海魚Lover

----その頃、京次はある場所に居た。

芽衣子には仕事で遅くなると言っているが、本当は違う。

その場所は、加瀬組本部事務所----


京次は今、だだっ広い一室にある立派な仏壇の前でお線香をあげている。

手を合わせ、長く閉じられた瞳がゆっくりと開く。

京次に届く垣村の声。


「キョウ、済まなかったな
 堅気のお前にわざわざ足を運ばせて」

「いえっ、何を言われます
 組長、親父には世話になった身
 
 知らなかったとは言え身内なのにも
 関わらず会いに来るのが遅くなり
 申し訳なく思っています
 本来ならば、息子の潤司も……」

「何、こんな危ない場所に
 大事なご子息を連れてくることはない
 
 生前、親父からも強く言われている
 娘夫婦とは距離を取ると……
 
 親父に叱られるわ」


加瀬組長はその言葉通り、潤司に会ったのは潤司が赤ん坊の時にたった数回だけ。


「ところで出雲は
 親父の死目には逢えましたか?」

「ああ、逢えたぞ
 親父も安心してあの世に旅立てたはず」

「そうですか、それはよかった」
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