深海魚Lover
「平気だ

 それより、じゅん

 おまえはあっち行ってろ

 じゅん?」


少女は、怖がりもせずに男へと向かって行く。


「ちょっと、オジさん

 私のイズモに何するのよ!」

「キャンキャン!」


老犬に少女、そして額から血を流す男の子に、男は呆れ顔を見せたかと思えば今度は深い声で言った。


「うるせえガキに、イヌ

 お前ら、よーく聞けよ!

 今日からここがお前らの家だ

 嫌だろうが、何だろうがお前らには
 ここ以外、生ける場所はない」


少女の手を取る男の子、引き戸に触れる手。


「死にたいなら出て行けよ

 どうぞどうぞ誰も止めやしねえ

 ほらっ、何処へでも好きなところへ行きな」


一歩踏み出せば、そこは真っ暗闇。

踏み出せない小さな二つの背中。


「父さん、いったい何?

 こんな遅くに……」

「おう、ケイジ、起したか?
 
 悪かったな」


子供の声に振り返る二つの頭を小突く手。
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