深海魚Lover
その時----何が起こったのか私には一部始終が見えた。


どこからか現れた男性は、少年の後ろに立つ。

男性は少年の頭を叩くと、今度は叩かれた頭を手で押さえた少年のあいた脇腹を思いっきり突いた。

振り返った少年は、スーツをパリッと着込んだ厳つい男性の姿に怯む。

さっきまでの威勢のいい顔つきが一度にうろたえて、それはまるで負け犬のよう。

喧嘩をするまでもなく少年は、何事も無かったようにその場から逃げようとした。


「おいっ!

 置いて行く物、置いてけよ」


男性の低く深い声にビクッと体を強張らせた少年は立ち止まると、私の鞄を地面に置いた。

そして、一目散に逃げ出した。


それもそのはず……彼は見るからに厳つく

きっと多分、絶対、その筋の人だろう。


そう、ヤクザ家業さん----


艶めくオールバックの髪、眉と目の距離は近く、スーッと鼻筋の通った高い鼻。

その横顔は堀の深い顔立ちに陰影ができ、とてもきれい……

絵にしたいぐらい、スケッチしたいだなんて、私はいったい何を考えてるんだか。
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