甘く熱いキスで
それから、周りの兵士たちの視線に何か鋭いものが混じったのを感じて様子を伺うと、彼らはライナーを睨みつけていた。ユリアに目を掛けられているのが気に食わないのだろう。

面倒な身分にある自分にため息が零れる。

「演習、ずっと見ていたわ。あんなに正確に的を打ち抜きながら走れるなんて、ライナーの集中力には感心したわ。それに、貴方はとても努力しているのね」

暗に、他の連中の集中力が散漫だったことを匂わせてにっこり笑って見せる。すると、ライナーは切れ長の目を少しだけ見開いてユリアを見た。

そんなに驚くことだろうか。

とにかく、ライナーの気が緩んだらしいと察したユリアは、素早く彼の手を取って引っ張った。

「あの――」
「貴方に話があるの。城に食事を用意させてあるわ。一緒に来てくれるでしょう?」

慌てて声を掛けてくるライナーだが、手を振り払ったり、足を止めたりしようとはしない。あからさまに抵抗はできない、と言った方が正しいだろう。

ユリアはそれを良いことに、競技場を出て城へと続く道をどんどん歩いていく。

「ユリア様。ユリア様にご招待いただくのは光栄ですが、私はそれをお受けできるような身分にありません」
「身分、身分って、ライナーは軍人よ。カぺル家の長男なら、そんなことは問題にならないわ」

カぺル家は現在陸軍のトップに君臨すると言っていい家だ。その長男であれば、ファルケン――主に軍部の人間から成り立つ議会の強硬派だ――から真っ先にユリアの結婚相手として名前が挙がってもおかしくない男である。

それなのに、彼の名前がユリアの婚約者候補リストに載っていない理由は……
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