甘く熱いキスで
「ユリア様もご存じとは思いますが、私は養子です。カぺルの血は一切入っていません」
「身分なんて飾りみたいなものよ。でも、飾りはあった方が綺麗に見えるし、貴方にそのラベルがある限り、少なくとも私の誘いを無碍にすることはできない。そうでしょう?」

そう考えると、面倒でもそれなりに役に立つ身分とやらは悪くない。

「しかし――」
「他に何か問題があるの?この後は夕方の軍会議まで時間があるって知っているのよ。エルマー伯父さんにちゃんと確認したもの」
「はぁ……」

ライナーの困惑した返事、しかし、その後は諦めたのか何も言わずにユリアに手を引かれてついてくる。

ユリアはそれに満足して鼻歌を歌いながら城へと急ぐ。

そうしてエントランスの前に辿り着き、ユリアがライナーを振り返ると、ライナーは少し顔を強張らせていた。

「どうしたの?」
「いえ……本城の中へ入ることは初めてで、緊張しています」

ユリアは「そうなの?」と返して、再びライナーの手を引いた。ライナーの手は、緊張しているという言葉を証明するかのように少し冷たくなっている。

廊下を少し進んですぐの客室に足を踏み入れたときも、ライナーは口を引き結び、ユリアに促されるまで入口で立ち止まったままだった。

「普通に昼食をとると思って食べて。あんまり緊張されてしまうと、私も食べづらいわ」
「……はい」

ユリアがそう言ってスープに口をつけると、ライナーも頷き、フォークとナイフを手に取った。
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