甘く熱いキスで
「ライナー!」

ユリアが朝の競技場へ赴くと、ちょうどライナーたち精鋭部隊の兵たちが出てくるところだった。結局、ライナーはユリアの提案を受け入れたが、城に滞在することは頑なに遠慮した。今も城から近い城下町の高級住宅街に住んでいて不便ではないし、あまり特別扱いを受けすぎると議会が更に混乱するからということだった。

だから、こうしてライナーの訓練の合間に食事をしたり、休みの日にデートをしたりするということでユリアも首を縦に振った。

そんな日々が始まってすでに2週間。デートはまだできていないが、ライナーと過ごす時間は確実に増えている。

「今日は早いのね。またお弁当を作ってもらったのよ。中庭で一緒に食べましょ」

ユリアは急いでライナーに駆け寄ってタオルを差し出す。ライナーはまた困った表情になったものの、素直にそれを受け取って汗を拭ってくれた。

そしてシェフにお願いして作ってもらったサンドイッチやスコーン、それに飲み物の入ったバスケットを見せると、ライナーは頬を緩めて「ありがとうございます」とお礼を言う。

他の兵たちがピリピリした空気を醸し出す中、ユリアはライナーの手を引いて早足にその場を離れて行く。

彼らのライナーに対する態度には、ずっと違和感がある。確かにユリアとの関係は嫉みの原因にはなるだろうが、おそらくそれだけじゃない。ライナーが養子だから……それにしても、全員が全員ライナーを目の敵にするというのも珍しい。

一括りにファルケンと言っても、良識のある人間はたくさんいる。ライナーに実力が伴っていることがわかれば、態度を軟化させる者が現れてもおかしくはない。
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