僕は君の名前を呼ぶ


──
─────


数日後、東京の自宅にて。


ふたりで迎える最後の朝。


彩花がこっちに来た日に俺が買った、ピンクのエプロンをつけた彼女がキッチンに立っている。


彩花はピンクがよく似合う。


彩花は「つけるのが恥ずかしい」と言ったけど、これを選んで正解だった。


おいしそうなにおいで目を覚ますと、愛しい君がいる。


そんな、ささいなことが今の俺にはとても幸せに思えるんだ。


「おはよ、彩花」


「おはよう。今日こそ手伝ってくれるよね?」


「いや、手伝わない。見てるだけ」


「ケチ」


ここ数日、「海斗も料理できるんだから手伝ってよ」と何回も彩花に言われた。


少しは手伝ったけど、ほとんど隣から料理をする彩花を見るだけ。




知ってるか? 彩花。


俺が、キッチンに立つ彩花を見る理由を。


まだ俺は、しがないただの学生だけど、君との未来を心の中に思い描いているからなんだ。


いつか君と一緒になれたら毎日こんな光景を見れるなんて、考えるだけで幸せになれる。


…なんて、単純だな俺は。


< 325 / 419 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop