僕は君の名前を呼ぶ
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数日後、東京の自宅にて。
ふたりで迎える最後の朝。
彩花がこっちに来た日に俺が買った、ピンクのエプロンをつけた彼女がキッチンに立っている。
彩花はピンクがよく似合う。
彩花は「つけるのが恥ずかしい」と言ったけど、これを選んで正解だった。
おいしそうなにおいで目を覚ますと、愛しい君がいる。
そんな、ささいなことが今の俺にはとても幸せに思えるんだ。
「おはよ、彩花」
「おはよう。今日こそ手伝ってくれるよね?」
「いや、手伝わない。見てるだけ」
「ケチ」
ここ数日、「海斗も料理できるんだから手伝ってよ」と何回も彩花に言われた。
少しは手伝ったけど、ほとんど隣から料理をする彩花を見るだけ。
知ってるか? 彩花。
俺が、キッチンに立つ彩花を見る理由を。
まだ俺は、しがないただの学生だけど、君との未来を心の中に思い描いているからなんだ。
いつか君と一緒になれたら毎日こんな光景を見れるなんて、考えるだけで幸せになれる。
…なんて、単純だな俺は。