後悔なんて、ひと欠片もない


「上等だあ!」

「ブッ殺されてえのか!」



男達が息巻き、トレーニングウェアの男を取り囲んだ時。


彼は無言のまま、すっと腰を落とし、両方の拳をゆっくりと掲げた。


それは、ボクシングの構えだった。

男たちに向けられた視線は威圧的な鋭い眼光を放つ。

さっと場の雰囲気が変わった。


それは、明らかに普通ではなかった。
オーラがあった。


場違いにも私は、感動してしまった。

目の前にリングと彼に当たるスポットライトが見えた気がした。


気合いの入ったファイティングポーズだけで、いい年こいたろくでなしを威嚇するに充分だった。


ヤバイ、と感じのか七三分けは、急に態度を和らげ、

「…ま、今回だけは許してやるよ。
お前ら、行くぞ」

素に戻って、後輩達を外へと促した。





「ありがとうございます。あの、ほんっとに助かりました…お礼させて下さい…」


涙目の私に、強面に見えたトレーニングウエアの男は奥二重の目尻を下げ、ニッと笑った。





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