溺愛御曹司に囚われて

会場も、本来なら縁がない高級ホテルのパーティー用の広間だった。

立食パーティーのような形式になっていて、リサイタルとは言ってもかなり気軽なものらしい。
もちろん主役は秋音さんなのだけど、彼女の知り合いの演奏家が何人かゲストとして演奏をする予定で、その間の飲食も自由なのだとか。

受付でもらったチラシには、演奏経験のある人はぜひ気軽にアンサンブルに参加して欲しいと書いてあるから、一般的なリサイタルよりもかなりカジュアルな形なのではないだろうか。

それにしても、たったの五年目でこんなリサイタルを開けるなんて、秋音さんっていったいどういう人物なんだろう。
高瀬もこの前、フレンチトーストのレシピを教えてくれたのはパーティーに出席していたピアニストの卵だと言っていた。

私の知らない目も眩むような煌びやかな世界で、高瀬はいつも誰と一緒にいて、なにを見ているんだろう。
高瀬はどうして、私にそれを話そうとしないんだろう。


「それを知るために来たんじゃない」


私は声に出してそう自分に言い聞かせたけれど、馴染めない空気に息が詰まりそうで、気を抜いたら今にも逃げ出してしまいそうだった。

ひたすら壁を背にくっつけ、眩しく見える会場を見渡す。そうやって肩身の狭い思いをしていると、会場内が突然拍手に包まれ、マイクを通してよく響く声が聞こえてきた。


「皆さん、今日は私のリサイタルに来ていただいて、本当にありがとうございます」


声の持ち主を探してきょろきょろすると、小さなステージのようなところに、長くてまっすぐな黒髪が印象的な綺麗な女性が立っていた。

白い肌にツヤツヤの黒い髪、真っ赤なドレスに合わせた紅い口紅がよく似合う、その女性が秋音さんだとすぐにわかった。


「音楽は、私たちの人生のちょっとしたスパイスです。なくても生きていけるけど、これがなくちゃつまらない。私はその、ほんのちょっとのスパイスが楽しくて生きています」


彼女が話を始めると、さっきまでの喧騒が嘘のように会場が静まり返る。間近に見る秋音さんは、人を惹きつける不思議な魅力のある女性だった。
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