溺愛御曹司に囚われて
ステージでは、秋音さんと交代していろいろな人が演奏をしている。
ヴァイオリンやチェロ、サックスやオーボエ、そしてピアノ。
次々に紹介される演奏家たちは、私の知らない人も多かったけれど、みんなこのリサイタルの趣旨に賛同していて、とても楽しんでいるみたいだった。
最初は緊張したけど、こういうリサイタルならまた来てみてもいいかもしれない。
それまでにもう少し音楽の勉強をして、秋音さんの演奏のすごさをわかるようになりたいなあ。
「失礼ですが、おひとりですか?」
「へ?」
不思議な味付けの施された、アボガドと白海老のカルパッチョを頬張ったとき、突然うしろから声を掛けられた。
ものすごく自然な仕草で腰に腕をまわされる。
「やっぱり、近くで見るととても可愛らしい女性だ。さっきからずっと料理に夢中だね。僕の相手をしてくれないかな」
私の隣にぴったりとくっついて立つ男性は、明るいシルバーのスーツに暗い色のベストを合わせて見事に着こなしている。
髪色も明るく軽い雰囲気だけど、年齢は三十代後半くらいではないだろうか。
目鼻立ちのハッキリとした顔立ちで、少し出っ張った頬骨の辺りは、ほんのりと赤みを帯びている。
左手を私の腰にまわし、右手にはワインの入ったグラスを持つ。
ちょっと酔っているのかもしれない。
「あの、すみません。私……」
「僕のパートナー、今はピアノに夢中でね。秋音さんに誘われたら、自分のコンサート以上に気合い入れちゃって。見えるかな? あの紺色のドレスでピアノを弾いている女性なんだけど」
男性は距離を取ろうとする私を制して、腰にまわした腕で私の身体の向きをぐるりと変える。
無理やりステージのほうを向かされて、ピアノのほうへ視線を移し、目に飛び込んできた光景に息が止まった。
思わず男性の手を振り払うことも忘れてしまう。