溺愛御曹司に囚われて
そうか、彼女はその男性に恋をしているんだ。
まだ恋人ではないけれど、もしふたりがうまくいけば、きっと彼女を支えてくれる素敵な彼氏になるんだろうな。
普段あまり自分の恋愛について語る機会がないのか、種本月子は弾んだ声で話を続ける。
こんなふうに話をする彼女は、年相応の普通の女の子だった。
「でも彼、本当に誰が見ても魅力的な男の人で、彼女がいるらしいんです。同棲してるって。だけど私、その彼女より絶対に彼のことを好きだって自信があるんです」
「えっ……」
どんどん勢いがつく彼女に気圧されて、私は相槌を打つタイミングも見失っていく。
ちょ、ちょっと待ってほしい。なんだか気になることがあるんだけど……。
「実は昨日の夜、不安になって彼に電話してしまったんです。そしたら今日、会ってくれるって。初めてなんです、プライベートで彼とふたりきりで会えるの」
まるで親友に内緒話を打ち明けるように、ワクワクした様子で種本月子が顔を寄せた。
私の頭の中で、様々なパズルのピースがカチカチと音を立てて合わさっていく。
彼女が恋をしているのは、桜庭音大の先輩のコンサートで偶然出会い、たまたま車の中にあった女性ものの靴をくれた男性だ。
その人は誰が見ても魅力的な男性で、彼女がいて、同棲している。
その後のパーティーで何度か顔を合わせたということは、彼もコンサートに来ていた一般客というわけではなさそうだ。
『明日の夜、そっちに行くから』
私の耳には、昨夜の高瀬の声がよみがえる。
「今夜、その人と会うの?」
恐ろしい予感に震える私の声にも、恋に浮かれた彼女は気づかない。
「はい、そうなんです。変だと思いませんか? 不安だから会って欲しいって言ったら、彼、すぐに返事をくれたんです。まあ彼のお姉さんはヴァイオリニストなので、そこらへんのデリケートな扱いには慣れているからかもしれませんけど」
心臓がトクンと嫌な音をたてた。