溺愛御曹司に囚われて

「わるいな、高瀬。この据え膳を喰らわねえほど、俺はお人好しな男じゃねえぞ」


低くつぶやいた先生の手が私の髪をなで、肩に触れたかと思うと、そのままブラウスのボタンに手をかけた。


「やっ、先生、まっ……」


彼の腕を掴んで止めようとしても、容赦のない男の人の力には敵わない。
脚にはがっちりと体重をかけられ、彼の胸を必死に押し返そうとしても、先生の指はどんどんボタンを開いていく。

ソファが軋んで音を立てた。
先生がブラウスの胸元を掴み、それを大きく開こうとする。

私はとうとう、涙を流して抵抗した。


「せんせ、おねがっ……お願い、やめて! 高瀬!」


そう叫んだ瞬間、先生の手はピタリと止まった。
私の腕を引いて優しく身を起させると、自分が外したボタンを手際よく留め直す。

いったいなにが起こったの……?

放心して鼻をすする私の身なりを整え終えると、最後に乱れた髪をそっとなでて微笑んだ。


「小夜は難しく考えすぎ。お前の悪い癖だな」


涙の伝う頬に手を滑らせ、それを拭うとすぐに手を離す。


「俺、思うんだけど、まじめで不器用なお前が曖昧な関係に甘えていられたのは、相手が高瀬だからなんじゃないのか? あいつだから、甘えてもいいって思えたんだろ。俺には見せてくれなかった顔だよ。俺だって、小夜に学校辞めさせるくらいなら、教師辞めてでもお前を守っていく覚悟があった。だけど、小夜はそれを望んでくれなかった」

「そ、そんな」


少し寂しそうに笑う先生に言葉がでない。
だって彼は、あのときそんなことはひとことも言わなかったのに。

先生は結局なにもかもを捨てるほどには私を求めてくれなかったのだと私がショックを受けたように、先生も私に同じ思いを抱いていたのだろうか。
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