溺愛御曹司に囚われて
「そんな顔するなよ。乱暴にしてわるかった。あいつに知られたらぶん殴られそうだ」
先生は困ったように笑いながら、私の頭を引き寄せ、自分の肩にもたせ掛けた。
あやすようにポンポンと叩かれて、わけもわからず涙が出てくる。
ホッとしたのかな。
それとも、ようやくあのときの先生の気持ちを聞けたからだろうか。
先生はぐずぐずと泣く私の頭をいつまでも優しくなで、私が落ち着くまでジッと静かに動かなかった。
その日の夜は私がベッドを使わせてもらうことにした。
先生は背の高い身体を窮屈そうに丸めてソファに横たわっている。
絶対に私がソファで寝たほうがいいって言ったけれど、先生は聞かなかった。
私は寝室の戸口に立ち、ソファの上に丸まる先生に言った。
「先生、今日はありがとう」
「ん? そうだな、いつあいつが乗り込んできて俺を殴るかって気が気じゃないよ」
ソファに寝転がったままそんなふうにおどける先生は、案外照れ屋なんだと気づいた。
私がいつまでもそうして動かないから、先生はあきれて立ち上がり、私を寝室のベッドに横にならせる。
私に布団をかけ、小さな子どもにするように、私が寝入るまで小さな声でたわいもない話を語った。
「小夜、お前は昔、人魚姫の童話が嫌いだって言ってたけどさ」
私が微睡みはじめた頃、先生が言った。
「人魚姫はどうしてもほしかったんだよ、王子様のことが。王子様の隣に行きたくて、声すら引き換えにした。しゃべれなくても、王子様が他の女と恋をしても、一途にひたすらに愛を捧げてみせた」
私はここ最近の疲れもあって、先生の与えてくれる安心感にもう瞼が落ちそうだった。
眠りに半分足を突っ込んだような状態で、先生の言葉を聞いた。
「すげえ強いお姫様だと、俺は思う。欲しいものは欲しいと、海の底からでもちゃんと手を伸ばした」
小夜、お前はどう――?
耳に届いたその言葉を胸に、私は深い眠りの底へと落ちていった。