溺愛御曹司に囚われて
* * *
「小夜、デートしよっか」
次の日の朝、そう言った先生が私を外へ連れ出した。
昨日までの憂鬱な雨も晴れ上がり、青い空がどこまでも高く伸びた、気持ちのいい日だった。
「あの頃、恋人らしいことはなにもしてやれなかったから。今日は小夜が行きたいところ、どこでも連れてってやる」
そう言って先生は私をいろんなところへ連れて行ってくれた。
動物園に行って、買い物をして、先生おすすめの隠れ家みたいな”ラーメン猫丸”という店でお昼を食べた。
見晴らしのいい展望台のある山を車で登って、街に沈んでいく夕日を見た。
辺りがすっかり暗くなってから車に乗って山を下った。
この頃にはすっかり遊び疲れて、助手席でうとうとする私に先生は言った。
「着いたら起こしてやるから、ゆっくり寝とけ」
夜の闇に沈んでいく街を切り裂いて、先生の黒い車は走り続けた。
「小夜、着いたよ」
「ん……?」
少し風が冷たくなった頃、先生が助手席で眠る私を揺り起こした。
「ここって……」
「あのとき、来てやれなかったから」
そう言って車を降りた先生を追いかけて、私も助手席のドアを開ける。
冷たい海風が吹いて、私の黒い髪をさらっていった。
先生がずんずん進む方向から、波の音が聞こえてくる。
ここは人魚の岬。
高校生の私が先生を待った場所。
そして、高瀬が私を迎えに来た場所。
先生が浜辺に立ち、真っ黒な夜の海を眺めている。
頭上には星がキラキラと瞬いていて、揺れる水面に微かな光を落としていた。
私は先生の隣に立つと、同じように静かに海を見つめた。
先生は今、なにを考えているのかな。
真っ黒でとても深い夜の海。
写真で見たらすごく綺麗なのに、目の前で見る海はときに荒々しく、なにもかものみ込まれてしまいそうになる。