溺愛御曹司に囚われて

有名財閥葦原家の別邸だった帝国葦原館は、広大すぎてどこになにがあるのか、どこまでが敷地なのかもよくわらかない。
たくさんの部屋をもつ宿泊棟や、プールやパーティー会場、歌舞伎座や図書館もあり、英国式の立派な庭園もある。

年中様々な行事が催され、多くの著名人が出入りしているらしいけど、私には縁のないところだった。

今夜はそんな葦原館の一角にあるコンサートホールで、秋音さんのあの素敵なヴァイオリンを聴くことができるのだ。
なんて幸せな夜なんだろう。

会場の前で車が止まる。
お金を払ってタクシーを降り、あまりの豪華さに興奮して叫びだしたくなるのを必死に堪えた。

綺麗にドレスアップした女性や、タキシードをバリッと着こなした男性たちが次々と入口からのみこまれていく。

もっとキョロキョロといろんなところを見たかったけれど、それも堪えて人の波に乗って歩いた。

建物からもれるやわらかな光が夜の闇に溶け込んでとても綺麗。

絵本から飛び出してきたお城のように見えた建物の中は、その見た目に違わず中身もお城みたいだった。
大きな螺旋階段があって、美術に詳しくない私にも一目で高価だとわかる絵画や銅像が置いてある。

今夜のコンサートには、前回のリサイタルのときよりも一般のお客様も多いみたいで、ウキウキした様子で会場内を見回す人もたくさんいる。

こんな場所でコンサートを開催できるのは、彼女の演奏家としての実力と、葦原家の遠縁という家柄のなせるわざだろう。

係りの人にチケットを渡すと、席へ誘導すると言われてホール内へ案内される。

どうして私だけみんなとは別の入口へ連れていかれるのだろうと疑問に思ったけれど、席へ辿り着いてびっくりした。
秋音さんが用意してくれたのは、最高の位置にある関係者席だったのだ。

私は係員にお礼を言って、自分の席に腰を下ろす。
まわりの人たちはみんな堂々としていて、こういう場にも慣れた様子だったけど、私はソワソワする気持ちを隠しきれなかった。
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