壊れるくらい抱きしめて
「こっちおいで」


突然左手を掴まれ引っ張られる。顔を見ると林さんと同じ2つ年上で同期の松本 修吾さん。


企画開発部で同期の飲み会で話すことはあるけれどこんな風に腕を引っ張られるほど親しくはない。

だけどそれでも今はあの場所から私を引き離してくれるなら縋りつきたかった。


連れて来られたのはあまり人が来ない第二資料室。


埃っぽくてあまり人は立ち入らないけれど今にも泣きそうなこんな姿を誰にも見られたくなかったからちょうどいい。


「見たくないものは見なくていいよ」


ぎゅっと抱きしめられた。力強い腕、優しい言葉。堪えきれなくなって我慢していた涙は決壊した。


見たくなかった。たとえ私が彼の瞳に写っていなかったとしてもただの同期としか思われていなかったとしても、それでもあんな幸せそうにキスを交わす姿なんて見たくなかった。


松本さんはただ嗚咽を漏らしながら胸の中で涙の止まらない私を抱きしめて背中をポンポンと撫でてくれた。
< 4 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop