【完】女優橘遥の憂鬱
 『そりゃそうだ。前技なんか遣ってたら、コイツは逃げていたよ』

監督のあの日の言葉を思い出す。


きっとあの娘には、その前技もあったんだろう。
私のようにいきなりがどんな結果になるか解りきっているはずだから……


監督にもあの時の悲鳴や啼き声は聞こえていたはずだから……

でも、私だと信じていたはずだ。
もしかしたら彼女は、その後で……


考えただけで、震えが来る。

そう……
あの娘も私同様ヴァージンだったのだ。


よりによって監督は……

又腸が煮え繰り返る。


やはりあの娘が助かったのはお兄さんがバイクで追い掛けたからだろう。

兄弟愛の力なんだろうと思っていた。




 その時私は、大切な人の存在することに気付いた。
私の中で唯一果てたあのカメラマンだ。

でも彼は喘ぎ声を上げながら私の身体を堪能して以来、大人しくなっていた。

きっと、誰か好きな人とシコシコ遣っているんだろうと思っていた。




 又……
あの日がよみがえった。

そんな時、耳を澄ませて隣の部屋音を聴く。

彼に優しくしてほしいのに……
又イカせてほしいに……

もう一度感じたいに……

傍に居るのに言えないもどかしさ。
隣り合わせの部屋に居るのに触れ合えない哀しさ。


そんな時私は、彼の行為を思い出しては疼かしていた。


(貴方が欲しい。今すぐ抱いて欲しい)

私の願いはそれだけだった。




 カメラマンのことを思うと、胸が張り裂けそうになる。

苦しくて苦しくて仕方ないこの感情が恋だと解っている。


でも、私から言える訳がない。
貴方と遣りたいなんて言えるはずがないのだ。

純情可憐な乙女だった日々が蘇がえる。

もしもあの頃出逢えていたなら……

それでも私は、彼に捧げていたと思う。
私は彼に運命的な何かを感じていたのだ。


最初はお尻を振って拒絶しようとした。
がんじがらめにされていても頑張ったんだ。




 でも私はこの人に助けてもらった。

痛くて痛くてどうしょうもなかった時、優しくしてもらった。
あれがあったから私は、苦痛だけだった撮影を乗りきれたのかも知れない。

だから今……
貴方の傍で過ごしたい。




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