ねぇ、どうしたいの?
「二人とも遅くまでご苦労様。気をつけて帰るんだぞ。」
担任の小野(オノ)先生は、いつもの眩しい笑顔で私達にそう言った。
職員室には、すでに帰ろうとする先生の姿も見受けられる中、小野先生の机は散らかり放題でとても帰りそうにない雰囲気だった。
「先生はまだお帰りになれそうにありませんね。頑張ってください、失礼します。」
宮塚くんは人が良さそうな笑みと綺麗なお辞儀を見せ、踵を返した。
「待て、宮塚。もう遅いから一乃木を送ってってやれ。」
先生は変わらぬ眩しい笑顔で、とんでもないことを言ってくれた。
せ、先生……なんてことを……!
遅い私を待っててくれたのに、これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。
「先生、私一人で大丈夫ですから!」
「まぁ遠慮すんなよ、一乃木。な、宮塚?」
遠慮とかじゃなくて…。
きっと面倒臭そうな顔してるんだろうな、宮塚くん。
振り向くのが恐ろしい。
「………言われなくても、そのつもりですよ。」
「え………」
今、なんて?
それは予想外な解答で、
「お、そっか。それは余計なお世話だった。良かったな、一乃木。」
私は何とも読めない表情の宮塚くんを見つめてしまった。
「おーい、一乃木?」
先生の声は耳をすり抜けるだけ。
「ほら、行くよ。一乃木さん」
「え、あ、はい!」
宮塚くんに呼ばれて足を動かす。
一歩、一歩踏みしめる度、胸が鳴る音がした 。
それは、きっと、『好き』に近づいていく音。
長い、長い、恋の始まりの音でした。