好きな人のお母様に恋心がバレました
「優しくする人を選ぶことだってある。狡いやつだったり、するよ」
「………はい」
先輩は私と目を合わせないまま、淡々と言葉を紡いでいく。
「似合ってる化粧を、似合ってないから落とせって言ったり」
似合っている化粧。……さっきの、ことなんだろう。
なんだ。朝霞先輩は、似合ってるって思っていたのか。……ならなんで、あんなことを言ったんだろう。
「それは、……意地悪で言ったんですか」
こてん、と首を傾げて問い掛ける。
目的は分からない。でも冷たいところがあるならば、そんな風に口から意地悪が出てしまうこともあるのだろうか。
すると彼は笑った。
さっきと違って、自嘲に満ちた音だった。
「……そうだよ。ムカついたから、言ったんだ」
「……っ」
「幻滅したろ」
窺うように私をやっとこさ見つめる瞳。
じっと見つめられて、吐く息が震えた。
ムカつく、なんて先輩の口から直接聞いて、悲しくないわけがない。
でも、それはきっと、私に向けられた言葉じゃない。だからなおさら、悲しかった。
「……幻滅です。先輩がそんな風に自分を傷つけるから」
「……え?」
「本当に狡い人なら、私に敢えて嫌われるようなこと、言わない。もっと上手くやるでしょう。……でもそんなふうに、敢えて私を傷つけるのは」
そっと、朝霞先輩のシャツの裾を掴んだ。
真っ直ぐに見つめて、絶対に目をそらしてなんかやらない。
「私を傷つけて、私に嫌われることで、自分を傷つけようとしてる。
きっと先輩は、そうでもして、自分が言ってしまった酷いことの埋め合わせをしようとしてる」