青春を取り戻せ!
と、少しきつく言った。

(何だ!?電話って)

嫌な予感が背骨を駆け抜けた。

白木がグラスを掲げた。
「乾杯!」
「乾杯!!」

二人が口に含んだのを確認すると、僕はグラスを下に落とした。
「あっ 失礼!」

真紅の液体がペルシャ絨毯にひろがった。

未美が絨毯をそばにあったダスダーで拭きはじめた。

僕はグラスを拾い上げた後、アイスペールの中のワインボトルを取り上げた。

「私が差しましょう」

と、手を伸ばした白木を制して、自分で自分のグラスに注いだ。

そのあと白木が未美に目を移した隙に、指輪に仕込んでおいた筋弛緩剤(※しびれ薬)をボトルの中に落とした。

そしてまず、まだ絨毯を拭いている未美のグラスに、次に、既にカラになっている白木のグラスに注いだ。

「ありがとう」彼はそれを口に運んだ。

「今日は綺麗な奥様の手料理をご馳走になれるかと思うと楽しみで、お昼を軽くしてきたんですよ」

拭き終わった未美が、
「がっかりなさったでしょう?」
とグラスを持ちながら言った。

「期待以上でした」

「まぁお上手なんですね。オホホ……」

と、セレブを気取って笑った。
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