青春を取り戻せ!
僕はテーブルについた腕を枕に寝ていた。

（いま何時だろう？）

腕時計を見た。十時、十五分前だった。

「お願い。ベットで寝て」

久し振りの二人だけの夜に、寝たら申し訳ないと思い、まぶたを開けようと努力したが、重い鉄の扉のようにしばらくすると落ちて来てしまう。

（昨夜も満足に寝てないんだ、無理もないか）

彼女の肩に掴まり、ベットまで行くと崩れるように横になった。

彼女が皿を洗う音が、まるで遥か彼方の小川のせせらぎのように聞こえ、深い眠りに落ちていった。

僕はデェリカシーのない目覚まし時計の音で、目覚めた。

頭の芯にしつこいゴキブリが掴まって揺すっているような最悪な目覚めだった。

…しかし本当に最悪なのはこれからだった。

ズボンをはいたまま寝ていた。これは悪いというより良いことだった。はく手間がはぶけて楽だった。
今度から毎晩はいて寝ようと思ったほどだ。

（悪いことしたな。勝手に寝ちゃって）と思いながら、ふらふらと起き出し、リビングルームに入った。

（えっ！？誰か倒れてる！）

瞳孔を凝らすと、髪の長い女性が仰向けに倒れていた。

しかも緑色のカーペットを広範囲に黒く染めて、………

………悪い夢の続きだと思った。
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