青春を取り戻せ!
僕は自分の耳を疑った。

見開いた眼で彼女の後ろ姿を凝視した。白いブレザーの肩口が黄色くなるまで凝視した。

(いま何て……? もう一度言ってくれ!)

「その時は一人でしたか?」

「いいえ。白木猛と一緒でした」

(なに……!?僕の家に二人で居たじゃないか!)

「何のテレビ番組を見ていたのですか?」

「はい。毎週楽しみにしている“愛は時を越えて”というドラマです」

「その日の内容は調べればすぐにわかりますが、内容を話すことはできますか?」

「はい。あの日はヒロイン役のゆう子が、明夫を追ってパリに………」

僕は愕然としていた。 

体がひとりでに震えてきた。

………体が寒く痛いのだ。 

僕を取り巻く空気だけが、冷気を、――――― そして、刃物のような鋭利な突起を含んでいた。


「わかりました。後程その件はテレビ局のほうに照合してみます。話は変わりますが、証人の所有している車は赤いアウディ90でしたよね?」

「はい。そうです」

「となると、おかしいですね?その日、同じ車種の同じ色の車が被告の家の前に路上駐車してあるのを見たという目撃者が現れましたが、…それとも偶然、所有者の違う、同じ赤のアウディが止めてあったのでしょうかね?」
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