青春を取り戻せ!
「静かに!検事はこちらで許可を出してから発言するように!」

裁判長の大声に反応して僕の思考は萎み、検事も萎むように席に着いた。
そしてまた僕は吹雪の中にとじ込められていった。

「異議を認めます。弁護人は質問の内容を変えて下さい」

「はい。では内容を変えます。問題の時間に一緒にテレビを見ていた白木猛さんと証人とは、どういう関係ですか?」

聴覚のニューロンだけ別の生き物のように弁護士の声を拾っていたが、体は相変わらず動けば裂かれる寒さと痛みの中にいた。

「夫です」

…馬鹿な!?

頭の中で未美の声がスカッシュのように「夫です。おっとです。オットデス……」といく度も打ち返された。 

反響が終わると、頭が真白にスーッと変わっていった。辛うじて堪えられたのは、冷気のためにガクガクと音を立てている背骨の震えと、刺すような痛みのお陰だった。

「5年前から入籍してます」

と言う声が追い討ちを掛けた。

これが本当なら、なんと、僕と知り合う2年前から二人は夫婦だったことになる。でも二人は、…兄妹だ。日本の法律では結婚できないはずだ!? 
何故だ?

本当は、調べれば簡単にわかる嘘を聡明な未美が法廷で言うわけがない。つまり法廷にではなく、僕に嘘をつき通していたのはわかっていたと思うが、脳の深層でそれを認めたくないという作用が働き、僕を混乱に叩き込んだ。

…僕らは結婚の約束したじゃないか?
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