青春を取り戻せ!
…愛し合ってるじゃないか!
…何故!?

法廷では激しいやりとりが繰りひろげられているようだったが、僕には真白になる寸前の頭で未美の先程の言葉の真意を探るのが精一杯で、何も入ってこなくなった。

どのくらいの時間が経過したのだろう。いつのまにか、白木猛が証人台に立っていた。

「被告人の板倉達郎は被害者の丸山幸子と面識がないと冒頭でも言っていましたが、二人が一緒にいる所を見たことはありますか?」
と、検事が質問した。

「はい。二度、一緒の所を見てます。
一度目は彼の家に私が突然訪問した時です。
二度目は二人で私の家に来て、仲人をお願いしていきました」

不思議に驚きはなかった。

ただ、この空気の中から一刻も早く逃げ出したかった。

時間の問題で、僕の体は耳から凍傷でもげ、そして髪の毛一本一本、指一本一本は、鋭く尖った空気で切り刻まれるのがわかっていたからだ。

     *

弁護士が肩を落として現れた。

彼は蒼白な顔で透明なプラスチックの窓越しに、僕を見つめていたが、おもむろに、

「申し訳ない。私の力が至らなかったようだ」

僕はその時、何と言ったのか思い出せない。

「しかしまだ負けたわけではない。次は必ず優位に持っていってみせる」

僕は、何と答えたのだろう。どうしても思い出せない。何も言わなかったのか、それとも社交辞令を言ったのか、または意味不明のことを言ったのかも……?
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