青春を取り戻せ!
これを踏まえて本題に入りますと、利き手は手の筋肉の分化発達によるものであるが、そのもとは大脳皮質の運動野の分化発達にもとづきます。
つまり利き脳を考えていかなければならない………」

約30分に渡り難解な説明が続けられたが、簡単に言うと、僕は先天的に右利きで、動転していても逆上していても、本能的に右手を使うということである。しかし反射の関与する部分では、その限りではない。と、いうことだった。

僕はほとんど理由も説明されずに脳波計をつけられ、幾つかの検査をやらされていたが、それはこの不確定な確率を求めるためだったようだ。

弁護士はすくっと立ち上がると、裁判長に対した。

「検察側の見解では、庖丁を左手で掴み、右手を左手首に添え、柄を体で固定し、油断している被害者の背中に体当たりをしたということでしたが、被害者の体内からは抱水クロラールという強い睡眠薬が検出されています。…となると、犯人が油断を突いたというのはおかしな解釈です。寝ているもしくはフラフラの状態のときに油断を突く必要があったのでしょうか。

これは、殺意に基づき、計画的に行動したということにほかなりません。

つまり、反射の関与外と考えられます。この場合、医学的見地からみても、利き腕である右手に持ち替えるのが通常ということです。終わります」

僕は拍手を送りたい気持ちだった。見事な論理展開だった。
あの不愉快な捜査も、これでむくわれたと思った。

唇を噛み締めた検事が立ち上がった。

「被害者は立っている状態で背中から刺されました。
これは現場検証から明らかになっています。
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