朝食にワッフル


「緊張してる?」

「そ、そんなするわけないじゃないですか。ただ髪を切ってもらってるだけですよ」

私は胸の内を曝されるのが恥ずかしくて、必要以上に否定した。

「なら、今夜、飲みに行きませんか?」

「いいですよ」

誘われて嬉しかったけど、そんな事で大喜びするの、とか思われたくない。興味がなさそうに痛烈に素っ気無く返した。変に根づいたプライドが自分で自分を痛めつけている。


二年前に彼氏と別れてから、ずっとご無沙汰だった。従業員二十名の会社で事務の仕事をしている私は合コンに誘われる事もないし、新たな出会いもなくて……。

でも、いつか現れるであろう王子様のためにジェルを使って肌を潤してきた。肌と下着だけは綺麗に。それが私にできる美。

飲みに行ったバーでカクテルグラスを持つ拓人の手に触れると、拓人が言った。

「ちゃんと労ってるんだ。職業柄荒れやすいから」

拓人は努力してこの繊細で美形な手を守っている。努力している人だからわかるのかもしれない。肌と下着だけは綺麗に、という私の美に対する思いと、日常におけるほんのちょっとの努力を。


ストッキングが要らない、って言われた時、私の瞳は濡れていた。嬉しくて泣きそうになった。

でも、泣かない。

だって、私、今年で三十歳だし。五つも年下の拓人の前で泣くなんてできない。大人の女なんだから。




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