右隣の彼

嘘と真実

「入って」
言われるがまま私は岸田くんの家に入った。
岸田くんはそのままキッチンに入りコーヒーを淹れてくれた。
「はいコーヒー」
「ありがとう・・・」
私がコーヒーを受け取ると岸田くんは自分のコーヒーをテーブルに置き
私の隣に座った。
いつもと違う重い空気に背筋が自然とのびる。
私がコーヒーを一口飲んだら
「本当は何があったの?」
いきなり尋問するかの様に本題に入るもんだから吹き出しそうになってしまった。
「ちょ・・直球だね」

「そりゃ~そうでしょ。知らないの俺だけ…なんだからね」
・・・やっぱり怒ってる。そりゃ~怒るよね。
本当のことを言えば・・・・もーっと怒るはず、悪いことをしたわけではないけど
嘘をついたことには変わりない。
私は大きく深呼吸をするとそのまま思い切り頭を下げた。
「ごめん!」
「・・・・」
何も答えてくれない岸田くんの顔を直視出来なかったが
私は本当のことを話した。
接待ではなく颯太さんが個人的に会いたいと言ったこと。
その颯太さんが選んだ店がまさかの駿さんのお店だったこと。
颯太さんと駿さんが知り合いだということも・・・
だが岸田くんの機嫌が良くなるはずもなく
「どっちにしろ…一美は俺以外の男とデートしたことにはかわりないよね。」
「そ・・それは」
「待ってる俺の身にもなれってんだよ!本当は縛り付けてでも行かせたくなかったのに」
怒られてるのに岸田くんの言葉に嬉しく思う自分がいて、もしかしたら顔が緩んでるんじゃないかって
心配になるのだが
「やっぱり…年も近くて頼りになるし、やり手の社長さんの方がいいってわけだ」
悔しそうな顔の岸田くんの吐き捨てるような言い方に鼻の奥がツンとした。
「違う!そんなことない私はー」
「結婚するなら・・・やっぱり俺なんかよりああいう男がいいわけだ・・・」
「ああいう男?」
「店にいた兄貴と話していたのが社長さんだろう?
・・・・俺なんかよりあいつと結婚でもすればいいだろ?金もあるしルックスだって抜群ー」
岸田くんの投げやりな言い方や私の話を最後まで聞こうとしない態度に
気が付けば私の手は岸田くんの頬を思い切り叩いていた。
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