右隣の彼

ムードはないけれど


「え?今なんて言った?」
岸田くんの言い方はまるでデートでもしよう的な軽い言い方で
私は自分の耳を疑った。
だが、当の岸田くんは表情一つ変えずにまた同じ言葉を繰り返した。

「俺たち結婚しよう」

「それ・・・本気で言ってるの?」
自分から結婚の話をふったような感じになったが
まさか岸田くんから結婚しようと言われるなんて正直思ってなかった。
絶対に軽くはぐらかされて何となくこの話は終わり・・・
そう思っていただけに岸田くんに好きだと告白された時よりも驚きで
硬直してしまった。
でも反面、その言葉を素直に受け止めていいのかと不安が募った。
ある程度付き合ってお互いの気持ちが同じで、そろそろ結婚してもいい時期かもっていう
心の準備期間があれば
今の言葉はすっと入って感動の嵐となるのだろが・・・


「俺じゃ一美の旦那さんにはふさわしくない?」

年下男にこんなことを言わせちゃうほど自分が立派なわけじゃない。
それは私のセリフだ。

「そうじゃない。その逆っていうか・・・私みたいなおばさんと
 結婚ってある意味チャレンジャーじゃないのかなって。」
自虐的な言い方しかできない自分が情けないが、でもこれが
正直な気持ちでもあった。
付き合うのと結婚はやっぱり違う。
それに一緒に生活していけばどこかで不具合が生じる時が来る。
きっと捨てられるのは私のほうだ。
考えれば考えるほど結婚に対してプラスになることよりも
マイナスなことしか考えられない面倒臭い女になった。
30過ぎるとこうもひねくれた女になるのかと自分を恨めしく思った。
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