右隣の彼
「一美ちょっとこっちに座って」
脳内パニックの私を岸田くんは背中を押すようにソファーに座らせた。
だが座ったのは私だけ。
岸田くんはソファーの後ろにあるボードの前でゴソゴソしていたかと思うと
戻って私の隣に腰をおろした。
「俺の言ったこと、勢いで言ったっておもってるでしょ」
「・・・・・・」
はいそうですとは言えず無言でいると岸田くんは確信めいた顔でクスッと笑った。
「本当に・・・わかりやすいね。顔に出てる・・ていうかもう顔に書いてあるって
言ったほうがしっくりくるよ」
「え?」
私は咄嗟に自分の手を頬に当てた。
そんな私を岸田くんは口角を上げながら見ていたが、その顔が次第に真面目な顔になった。
「勢いで言ったんじゃないよ。俺は一美との結婚を常に考えていた。」
そしてソファーの前のローテーブルの上に四角いボックス型の箱を置いた。
その箱の中身がなんなのかすぐにわかった。
「勢いなんかじゃないってわかってもらえた?」
私は頷くのが精一杯だった。
「これは一美と付き合うことになった時に買いに行ったんだ」
「え?」
信じられなかった。
普通、付き合うことになってすぐに買うものじゃない。
岸田くんの考えていることがわからない。
驚く私を無視するかのように岸田くんは話を続けた。
「確かに普通に考えたら付き合ってある程度お互いの事を知り、一緒にいることが
 幸せでこの先も一緒にいたいって思うようになって結婚を意識し、それから・・・
 だろうね。でも俺もその考えに基づいて指輪をかったんだけど・・・」
言ってることがわからなかった。
「なんで?私たち付き合い始めてまだ数ヶ月よ。そんな短い期間でー」
「それは恋人としてでしょ?でも俺と一美の付き合いは数ヶ月なんて
 短い期間じゃない。3年はくだらないよね・・・・」
「えっ?」
「俺はもう何年も前から一美しか見てなかったよ。」
「でも仕事とプライベートじゃ・・・接し方だって違うじゃない」
「だから義姉を使って恋人のふりしてもらって、口実作っては
仕事帰りに恋愛相談にのってもらったよね。俺の中ではあれも立派なデートの
一つになってた。だから仕事以外の素の一美を見ることができた。
一緒にいる時間が長くなればなるほど思いは強くなったよ。
だから結婚するには何の問題もないと思うよ?
それとも・・・もっとムード作りしたほうがよかった?」
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