右隣の彼
私はそのまま店の入り口まで足を進めた。
本当は言いたい事が喉まで出かかっていた。
この苦しい胸の内を吐きだして楽になりたかった。
だけど、無関心な岸田くんの態度に自分が耐えられなかった。

「・・・帰ります」
私はドアノブに手をかけた。
その時だった

「俺の事で頭がいっぱいって顔だね」
久しぶりに聞く普段の岸田くんの声に私は振り返った。
「話かけない俺をどう思った?」
「・・・・」
岸田君は私の方へ一歩ずつ近づいてくる。
「自分以外の人間に笑顔を振りまく俺をどう思った?」
「岸田君?」
「一人で残って残業している時、何を思った?」
私との距離が徐々に近づく、岸田くんの表情は
会社で私に見せていた硬い表情ではなく、ちょっと前まで
私に見せていた柔らかい笑顔だった。
私は久しぶりに見せる岸田くんの優しい顔に目頭が熱くなった。

どうして岸田くんの笑顔がこんなにうれしいんだろう。
どうして岸田くんが前の様に話してくれるのがこんなに
うれしいんだろう・・・
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