右隣の彼

集中できない?!

誰もいない薄暗い店内に聞こえるのは私と岸田君のキス音だった。
啄ばむ様なキスは徐々に速さを増す。
お互いの気持ちが重なり合った時のキスは、初めて公園でした時よりも
格段に甘く、私は久しぶりに味わう幸せな気持ちに我を忘れそうになっていたが・・・

我を忘れてはいけなかった。
ここは自分の部屋でも彼の部屋でもなく彼のお兄さんの店だった。
正直離れがたいとは思うけど
いつお兄さんが帰ってくるかと思うととてもキスに集中できなかった。
その時だった。
岸田君の方から着信音が流れた。
「・・・・んっ・・・電話・・・で・・ないの?」
「いいの」
岸田君は電話に出るつもりなどなく私とのキスを優先していたが
私は切れる気配のない着信音の方が気になって仕方がない。
「ねえ・・・やっぱり電話・・・出た・・方が・・・」
「・・・・どうせ・・・兄貴だって」
兄貴?だったらなおさら出てくれないと困る。
だってそうでしょ~出れないって事は出れない様な事をしてるってことな訳で
ここお兄さんのお店だし…
そう思ったら私の手は岸田君を押していた。
「一美・・・?」
「電話に出て。お願い」
甘いムードを壊してしまうのは気が引けるけど・・・集中できないんだもん。
岸田君は肩を落としながらジーンズの後ろのポケットからスマホを取り出し、
スツールに勢いよく座るとスマホをタップして耳に当てた。
私は少し離れた場所で落ち着きなく立っていた。
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