右隣の彼
「岸田君。私・・・今日帰るよ」
なんでこんなこと自分で言ってしまったのかよくわからない。
お姉さんぶって言ってしまったのか
それとも自分から逃げを選択してしまったのか・・・
本当は一緒にいたいけど言ってしまった後に凄い後悔。
だけど、私の言葉に葵さんが初めて私に笑顔を向けた。
「いいんですか~」
・・・・やっぱりいやですなんて言えないよ。
私は笑顔で頷いた。だがー
「ごめん。それは無理」
岸田君はそういうとポケットからキーホルダーを取り出し、キーホルダーにつけられたいくつかの鍵の
中から一つを外すと私に差し出した。
「何?」
「ごめん。帰す気ないからさ、先に部屋で待っててくれない。俺は車で
 葵を家まで送ってくるよ。」
「え?!・・・でも」
「でもじゃなくて待ってるのわかった?・・・買い物袋部屋まで持っていけないけど」
岸田君は私に買い物袋を差し出した。
その横で葵さんが悔しそうな顔をしているのはわかったが、私は鍵と一緒に
買い物袋を受け取った。
だがその間、葵さんからの視線が痛かった。

その後岸田君は葵さんを送るため駐車場へと車を取りに行った。
葵さんと二人きりになるのはきついと思い、会釈をしてその場から離れようとしたのだが・・・
「ねぇ・・・あなたしげ兄の彼女なの?」
ストレートな質問だけどトゲのある言い方に敵意を感じた。

「・・・そうですが・・・」
少し間をあけて返事をするとふ~んとだけ言ってそれ以上は何も言われなかった。
ここにいる理由がなくなった私は軽く会釈をしてその場を離れた。
でも私は聞き逃さなかった。小さな声だが葵さんが私を見て言った一言を

「おばさんじゃん」

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