右隣の彼
そんなことを考えているとインターフォンがなった。
慌てて受話器をとる。
「はい」
「俺だけど」
「待ってて今すぐあけるね」
私は受話器を置くとすぐに玄関まで行って鍵を開けると
岸田君の笑顔があった。
「お・・おかえりなさい」
「ただ今」
岸田君は鼻歌を歌いながら靴を脱ぎ、私をみるとまた笑った。
「こういうの・・・いいね。」
「え?」
「だからさ、おかえりなさいって大切な人に言ってもらえるっていいなって」
岸田君の顔がすごくうれしそうで
その顔を見たらさっきまで悩んでた事ががどうでもよく・・・・

いやいやどうでもよくはないけど少し落ち着いたかな。

それから急いでパスタを作り一緒に夕食を食べた。
岸田君はおいしいおいしいって綺麗に平らげた。
食後はソファーに座りながらテレビを見ていたのだが
やっぱりあのおばさん発言と葵さんの存在が大きくて
テレビの内容が頭に入ってこない。
岸田君に葵さんの事聞きたいのに変なプライドみたいなものが邪魔して
喉まで出かかった言葉を何度も飲み込む始末。
全く、仕事だったら思ったことを即口に出すのに
こと恋愛になると聞きたいことも聞けなくなる自分の性格が嫌にさえ感じる。
ちらりと岸田君を見るとテレビ見て笑って思いっきりくつろいで
帰ってきてから一言も葵さんのことを口に出さない。
それも気になるがやっぱり・・・・聞けない。
押し殺すような小さなため息が出てしまったが岸田君はそれを聞き逃さなかった。
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