つなぐ理由

わたしはアルコールを飲むとすぐに赤くなる体質だから、ちょっとしか飲んでいないときもものすごく酔っている様に見られることもあった。だから先輩も、首筋まで赤くしているわたしがまた酔っ払っていると思って心配したのかもしれない。



わたし、今日は酔ってないから大丈夫ですよ。



わたしの手を引いて歩いてくれる先輩にそう言おうと思うのに、なぜかその言葉は口から出てこなかった。

上杉先輩に酒にだらしのない女だと思われるのはかなしいなと思っているのに。今日は「ちゃんと酒量を考えて飲んだから正気です」と言って駄目後輩のイメージを返上したいのに。



それ以上に繋がれた大きな手の感触が心地よくて、離し難くなっていた。



繋がった手のひらや指先からはほんのりと上杉先輩の体温が伝わってきて、自分でも分かるくらいに心臓がばくばくしていた。離すまいとするようにしっかりと握ってくれる手の強さにいいようのない幸福感がじわじわ沸いてきて、その晩もふわふわとした夢見心地でアパートまでの道を歩いていた。




---------ひとの肌に触れることって、こんなに気持ちのいいことだったんだ。




就職のために3月に親元を離れて友達も知り合いもいない東京に来て、心細いひとり暮らしをはじめたわたしは、人肌に飢えていたのかもしれない。だからこんなに他人の体温をうれしく思っているのかもしれない。


冷静にそう考えようとしている一方で、ひとには言えないような妄想が思い浮かんでいた。




----------手が触れているだけでこんなに気持ちがいいなら。もし抱きしめられたり、キスなんてされたら……。




熱に浮かされたようにぼうっとした頭でそんな不埒なことを想像してみる。相手はもちろん、上杉先輩だ。


先輩のことなんてまだ何も知らないくせに。どんな人かも分からないくせに。それでもわたしの心はわたしの戸惑いを置き去りにしてどんどん走り出す。この手を離したくない。そんな思いを込めて、先輩にバレないくらいこっそりと繋いだ手を握り返していた。






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