オレ様探偵とキケンな調査
「本当に切っていいの?」


「襟足ギリギリまで切ってください」


「わかりました。じゃあ…」


手早く髪を仕切りながら、おばさんはあたしの髪にハサミを入れていく。


床に容赦なく落ちていく髪。


捨てなきゃならない信吾さんとの思い出。


泣きたいけど、泣いちゃいけない。


あたしは“仮の2人”じゃなく“自立した1人”になりたいんだから。


「お客さま、いい所の奥さまでしょ?」


「え…?」


「ずいぶんお高いコート着てらっしゃったから」


ワインレッドのAラインコート。


信吾さんが好きなブランドのコートだ。


そんなコートも、揺れるピアスも、左薬指のリングも。


もう全部、全部いらない。


あたしが欲しいのは、誰も想わない1人の時間、それだけ。
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