優しさ、そして愛


もう入るしかないよね




「汐見杏です…」



意を決して声をかける






「入りなさい」







強いけど優しさを感じる声が
私を呼んだ






「失礼します」






静かに襖を開けた






顔を上げると優しげに笑っている
兄の姿と着物を着た祖父であろう人







「杏!!」






私が入ってくるとお兄ちゃんは
一目散に私のもとに来て抱きしめてくれた






「1人で寂しかったよな?

 会いに行けなくてごめんな



 これからはずっとずっと
 俺がそばにいるから」





昔と変わらない優しい兄





昔と違うのは私をすっぽりと包む
大きな身体とほのかに香るシトラスの香り






「ありがとう、お兄ちゃん…」






ぎこちなくそっと
背中に手を回した





< 12 / 138 >

この作品をシェア

pagetop