愛が冷めないマグカップ
「みつからなかったって、死んじゃったってことですか?」
「それは、わからない。だけど、もともとアユを拾ってきたのは小林部長だったらしくって、いなくなったのを知ってから、あちこち探してまわったみたい。張り紙なんかもしてみたみたいだけど、アユは帰ってこなかったの」
宮間さんは、懐かしいなぁと呟いた。
「小林部長、あゆみちゃんのこと、アユに重ねちゃってるのかな」
「えっ、じゃあわたし、犬と同等ってことですか。そうだとしたら、やっぱり小林部長って、かなりヒドイ人ですね…」
あゆみは情けなくて泣きそうな気持ちになった。こんなのぜんぜん笑えない。
小林部長がわたしのことをちょっとでも気にしてくれているかもしれないなんて、とんだ勘違いだったのだ。
いまなら、小林部長がこんな何も知らないあゆみを正社員として採用してくれた理由もわかる気がする。
ただ単に、飼っていた犬と同じあゆみという名前の女が現れて、ちょっと犬みたいな外見をしていたから、面白半分で採用したのだろう。小林部長は、そういう人だ。
「わたしは所詮、小林部長のペットと同じなんですよね。エリカ様に太刀打ちしようなんて無謀なこと、一瞬でも考えてしまった自分がバカでした…」
「やだなぁ、あゆみちゃん!あたし、そこまで言ってないって!」
かなり酔いが回ってきたらしい宮間さんは、あゆみの背中をばしばしと叩いた。